執筆者: 木ノ下 千栄(きのした ちえ)

8月にぴったり(?)のちょっとコワーイお話です・・・

◆由来について                                     (下写真)日暮れの珍皇寺

 京都ではお盆の8月7日〜10日頃にかけて精霊迎えをします。精霊迎えとは、お盆に先祖の霊が冥土から戻る際に、六つの道に迷うことなく加護し迎える盂蘭盆会の行事で、地元では「お精霊(しょらい)さん」と呼んだり、「六道まいり」といったりします。おしょらいさんとはご先祖様の精霊のことを言います。

 お精霊さんは京都で大きく分けて2箇所で行われます。一つは東山区の珍皇寺(ちんこうじ)。もう一つは上京区の千本えんま堂(引接寺)です。京都で東側に住む人は、昔から先祖を珍皇寺に迎えに行き、北側近くに住む人は千本えんま堂に行くそうです。

 珍皇寺付近は埋葬地で有名な鳥辺野に近いため、「六道の辻」といって、現世とあの世の分かれ道とされてきました。千本えんま堂も、古い埋葬地である紫野(蓮華谷)に近く、このような埋葬地に近い二寺はあの世との境界として、先祖の霊を迎える場所として信仰されてきました。特に昔は、庶民は火葬されることなく、そのまま野に放り投げられそれが埋葬の儀式とされていましたから、埋葬地の付近は冥途に行った人の霊が現れてもおかしくない場所として、人々に信じられたのかも知れません。

(下写真)迎え鐘をつく人々
 珍皇寺では、参詣者は水塔婆を納め、迎え鐘をつき、槙(まき)の葉を求めてご先祖の精霊を迎えます。千本えんま堂では、参詣者は迎え鐘をつき、戒名を記した経木に槙の葉で水をかけ、精霊を迎えます。

 お精霊さんで迎えられた先祖の霊は、8月の五山の送り火(東如意ヶ嶽の大文字、松ヶ崎西山・東山の妙法、西賀茂船山の船形、衣笠大北山の左大文字と鳥居)の火によって冥土に送り返されます。京のお盆の行事はこうしてやっと終わるのです。

◆「六道の辻」にまつわる伝説

「六道」とは東山区松原通東大路西入の珍皇寺の通称で、六道の辻はこの寺の門前をいい、松原通の轆轤(ろくろ)町と新シ町の間を南に走る道を指しています。この道は謡曲『熊野』で「冥途に通うなるもの」とうたわれており、これは小野篁(おののたかむら)がこの辻の井戸を通ってこの世とあの世を行き来し、昼は宮中に仕え、夜は閻魔大王の書記官を務めたという伝説に基づいているといわれています。

ところで、辻は異界への境界とされている場所で、とっても不思議なところ。たくさんの人が来ているからといって安心していると、突然ふっと冥界へ迷い込んでしまうかも・・・。気を付けましょう。

◆お盆の料理

京都ではお精霊さんのために、特別に料理を作ります。この料理は精進料理であることが決まっており、生臭さをさけるため、おだしも昆布だけで取ります。私の母も長年この時期になると、あたふたとお精霊さんの好物を作って仏壇に膳を調えていたのを覚えています。

「お精霊さんはな、薄味で、それから柔らこうてさっぱりしたものがよろし。」そんなふうに年寄りから若手へと語り伝えられていく、お精霊さんのお供え。ご先祖を大切にする京都人の心が伝わってくるようです。

このように特別の料理でお迎えしたお精霊さんも、ずっと家におられては困ります。そこで、「追い出しアラメ」といって、大文字の16日の朝、アラメをたいて、その黒い湯がいた汁を門口に敷いておきます。この料理をもって、お精霊さんにj浄土へと帰って頂くのです。

◆場所・日時(※各行事の日程は、天候等の理由で変更になる場合があります。)
六道珍皇寺(東山区松原通東大路西入ル)/8月7日〜10日
 8月17日にはお盆総供養法要が午前11時より営まれます。
 問い合わせ:075-561-4129
 右に地図があります。
千本えんま堂(上京区千本鞍馬口下ル)/8月7日〜15日
 問い合わせ: 075-462-3332

◆交通
六道珍皇寺へは
 ・京都市バス「京都駅」から206系統「清水道」下車5分。
 ・京都市バス「四条河原町」から80系統「清水道」下車5分。
 ・京阪電車「四条駅」あるいは阪急電車「河原町駅」から京都市バス207系統「清水道」下車5分。

◆お役立ち情報
・西福寺
珍皇寺へ上がる道ののすぐ手前にあります。この時期、お寺所蔵の地獄絵等が公開されています。生々しい絵に暑いのも忘れそうです。


(右図)西福寺の絵。右上の高貴な女性が、だんだんと腐敗していく様子が上段右から下段左へと順を追って描かれています。


  (左図)地獄絵。鬼の形相が生々しい。

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